がん医療アートメイクについて

がん医療アートメイクとは、がん患者さまの眉毛・まつ毛の脱毛ケアのための医療アートメイクです。

医療アートメイクは、抗がん剤治療の副作用のためのアピアランスケア(外見のケア)の一つであり、髪の毛の脱毛に対する医療用ウィッグと似た位置付けの、大事なケアと認識すると良いでしょう。

今回は、アートメイクの手法や、がん医療アートメイクががん患者さまに対し、どのような効果があるのかを解説します。

目次

医療アートメイクとは

医療アートメイクは、専用の針を使用し、皮膚の表皮~真皮浅層に色素を入れて皮膚を染色し、直接眉毛の毛並みを描く医療技術です。

皮膚の浅い部分(真皮浅層)に傷を付けるため、施術中の出血はほとんどありません。

また、針は使い捨てのものを使用しているため、感染リスクも極めて低く、日本のクリニックで行われている医療アートメイクでの感染症例は確認されていません。

国民生活センターによると、非資格者によるサロン等での眉タトゥー施術では、化膿したなどの実例があります。

国民生活センター|アートメイクの危害

個人差はありますが、麻酔を使用するため、施術中の痛みによる苦痛も少なく、中には眠られる方もいます。

施術は医師の指示のもと、看護師もしくは医師のみが可能です。(医師法17条)

なお、歯科医師は唇アートメイクのみ施術可能です。

医療アートメイクの定着・施術回数について

医療アートメイクの定着と施術回数について解説します。

定着

医療アートメイクは、施術後45日をもって肌に定着します。

アートメイクは皮膚に掘っているため、創傷治癒や新陳代謝の影響を受けます。

その影響を大きく受ける期間が45日間と言われているためです。

影響とは、施術後のダウンタイムにより、アートメイクが濃くなることや薄くなること、そして滲みや、部分的に退色するなどの変化をいいます。

施術後1週間で一旦色は薄くなりきり、45日以上の経過後、皮膚が正常な状態に戻ったら、定着した状態であると言えます。

この45日間の免疫細胞の影響などから色や濃さに変動があるため、2回目の施術で濃さを足したり、色むらや形の調整を再度行ったりと、整える必要があります。

施術回数

医療アートメイクは、1回目の施術では、定着の過程において色むらや形の左右差が生じるため、十分な濃さと形を1回の施術で定着させることが難しいとされています。

そのため、医療アートメイクは基本的に2回以上の施術を行うことが前提となっている施術です。

2回目の医療アートメイクで濃さを足し、色むらと形を整えることで、きれいな眉の形に定着させることができます。

2回以上の施術が必要とされる医療アートメイクですが、1回目の施術でもある程度の形を定着させることができるため、それがメイクのガイドラインとなるため、メイクはとても楽になります。

1回で全ての色素が定着しない理由

医療アートメイクは、なぜ1回で色素が定着しないのでしょうか。その理由を解説します。

1.免疫反応

体にとって、皮膚に入ってきた色素は異物です。

そのため、免疫反応が起こり、体外へ排出しようとします。

2.皮膚に一度に入る色素量には限界がある

皮膚には、一度に含有できる色素の限界値があります。

これを超えたものはかさぶたとなり、体外へ排出されます。

そのため、一回で定着させるために「深く濃く彫れば良い」というものではありません。

皮膚の回復を待ち、回数を分けて重ねていくことで、自然な色味ときれいな色が定着します。

アートメイクの施術の流れ

アートメイクの施術の流れを解説します。

1.初めにカウンセリングを行い、次に比率を測りながら眉のデザインを描きます。自眉毛に沿ってデザインします。

2.麻酔をして20分後に、施術を開始します。

3.麻酔が効いてから施術します。施術時間は1.5~2時間程度です。

仕上がり後のビフォーアフター仕上り後のビフォーアフター

仕上り後のビフォーアフターは以下のとおりです。

▼before

▼after

アートメイクの技法の種類

医療アートメイクにはいくつかの技法があります。ここでは2つの技法をご紹介します。

手彫りによる毛並みアートメイク

手掘り毛並みアートメイクは、眉毛の毛流れに合わせて、毛並みを1本ずつ線で描く技法です。

この技法により、自眉毛が増えたような、ふんわりとした自然な仕上がりになります。

しかし、肌質や年齢によって線がにじむ場合があるため、向き不向きがあります。

マシーンによるパウダーアートメイク

マシーンを使ったパウダーアートメイクは、まるでお化粧をしたようなパウダー感のある仕上がりになる特徴の技法です。

ナチュラルな仕上がりが好きな方におすすめです。

この技法は、肌にダメージが少なく、年齢や肌質に向き不向きがないため、多くの方に施術が可能といわれています。

脱毛が がん患者さまに及ぼす影響

脱毛は、がん患者さまにさまざまな影響を及ぼします。

頭皮・眉毛・まつげの脱毛による外見の変化

・お顔の印象の変化、表情の消失

・アイデンティティの消失

・自信の消失

抗がん剤治療による体力の低下・精神的ストレス

・眉の脱毛に毎日のメイクがより難しく、メイクに時間もかかることによる体力の消耗

・眉毛のない以前と変わったお顔を見る精神的なストレスと不安の増加

がん患者さまは、抗がん剤の副作用により眉毛が脱毛したお顔を見て、精神的にショックを受ける方がほとんどではないでしょうか。

朝や就寝前、ふと鏡を見たときに、眉毛がない自分の顔を見ると気持ちが落ち込んだり、自信の消失に繋がるかもしれません。

抗がん剤治療を始める前に行うがん医療アートメイクの意義について

抗がん剤治療を始める前にがん医療アートメイクを行うことにはどんなメリットがあるのか解説します。

安心感を得られる

治療前に元の眉毛に合わせて眉アートメイクを施すことで、脱毛しても眉毛がなくなる心配がないと安心感を得られます。

そして、精神的ストレスの軽減になります。

変わらない自分らしさを維持できる

脱毛が始まり、眉毛が抜けても、眉アートメイクがあるため、眉の形が維持されます。

そのため、今までと変わらないお顔の印象と、豊かな表情であなたらしさを維持して生活できます。

日常生活のサポートを担ってくれる存在になる

現在は抗がん剤治療は通院して行うケースが多く、通院しながら仕事や家事育児をされている方も多くいらっしゃいます。

その治療以外の変わらぬ日常生活の中で、眉毛があるのとないのとでは、モチベーションや精神的負担が大きく変わってくるのではないでしょうか。

抗がん剤治療の前に医療アートメイクを施すことにより、通常だと脱毛してメイクが難しい眉も、医療アートメイクが眉のガイドラインとなり、その上に沿ってメイクが簡単にできるようになります。

がん医療アートメイクは日常生活のサポートを担ってくれます。

医療アートメイクとタトゥーの違い

医療アートメイクとタトゥーの違いは以下のとおりです。

①皮膚に色を入れる深さ

②使用する道具・マシーン

③使用する色素

④法律

順番に解説します。

①皮膚に色を入れる深さ

・タトゥー

皮膚の真皮まで色素を入れます。

・医療アートメイク

皮膚の真皮浅層まで色素を入れます。

②使用する道具・マシーン

・タトゥー

コイルタトゥーマシーンが主流です。パワーが強く、真皮の層まで深く色素を注入できます。

・医療アートメイク

ロータリーマシーンが主流です。静かで繊細な振動のため、浅い層に施術できます。

手彫りはブレードを使用するマイクロブレーディングが主流です。

使用する色素

・タトゥー

色素の質量や粒が大きく、体内に入るとほとんど分解されません。

真皮層に入っても、色が鮮やかに見えるように高発色です。

また、金属含有量が多いです。

・医療アートメイク

色素の質量や粒が小さく、数年かけて体内で分解されるように作られています。

体内で分解され薄くなりますが、100%消えるわけではありません。

体の色に馴染むような色合いのものがほとんどです。

日本で使用しているアートメイク専用の色素は、アメリカ食品医薬品局やヨーロッパの安全基準を満たす原材料を使用したものがほとんどです。上記の安全基準を満たした色素は、金属含有量がごく微量のため、MRI検査に大きな問題はないと言われています。

法律

・タトゥー

体に模様を彫る行為であり、宗教・風俗の側面が強く、装飾的・美術的な意義のある社会的な習俗という実態があります。

医療目的ではないものとされているため、法律や資格などはありません。

・医療アートメイク

平成13年の医療法第17条が改定され、アートメイクは医療行為とみなし、現在は医師免許を有している人もしくは、医師の監督下のもと看護師免許を有している人のみが施術を行えます。

医療行為であるため、施術は必ず医療施設で行わなくてはいけません。

眉・唇・目・乳輪・傷跡・白斑に関して美容整形の範疇とされるものは医師法が適用されます。

医療アートメイクは今後アピアランスケアの一つとして広がっていく施術

医療アートメイクは、おしゃれとしての用途以外に、がん患者さんのアピアランスケアの面での大きな手助けとなる存在です。

抗がん剤治療での脱毛前に施術することで、脱毛後の容姿の変化への戸惑いや精神的負担が減るでしょう。

また、眉のガイドラインとなってくれるため、メイクも楽にできるというメリットがあります。

医療アートメイクによって「がん治療での脱毛や、脱毛症を経験された方が、変わらず自分らしさを持ち続けてほしい」という思いが今後さらに広がっていくでしょう。

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